種を未来に守り継いでいくために
昔の農家は、できの良い野菜から種を採って...翌年にそれを蒔いて...
というのを繰り返していました。
つまり、種は、代々、受け継がれるものでした。
こうした種のことを固定種といいます。
でも、今では、そんな農家は皆無です。
種は、毎年、買うのが当たり前になっています。
こうした種のことをF1種(交配種)といいます。
では、なぜ、毎年、種を買う必要があるのかというと...
このF1種というのは、流通に適するように品種改良された種です。
したがって、育った野菜は、見た目がきれいで、サイズや形が揃います。
表面が固く長距離輸送にも耐えられます。
たとえば、小松菜といっても、チンゲンサイやタアサイと掛け合わせています。
F1種は、見た目重視の消費者ニーズにマッチし、またたく間に普及しました。
そして、F1種と慣行農法一色に塗り替えられることになりました。
しかし、これが、後に大きな弊害を生むことになります。
昔の農家は、その土地に合った野菜を育てていました。
つまり、適地適作で無理をしていません。
これは、自然に沿ったもので環境への負荷も少なく、持続が可能でした。
ところが、F1種は、栽培される土地で育った種ではありません。
(今では、9割以上の種は海外で採種されています)
つまり、種が、その地になじんでいないので適地適作ができません。
そのため、どうしても、肥料や農薬、除草剤に頼らざるをえなくなります。
そして、環境や生態系を破壊し、土壌が損耗し、野菜が育たなくなっていきます。
結局、農業を続けることができなくなるというのが実情です。
自給菜園(家庭菜園)では、健康的な野菜を持続的に栽培することが目標です。
何も、大量生産を目指しているわけではありません。
そのため、輸送や陳列のための規格野菜である必要もありません。
したがって、昔ながらの固定種が適しているということになります。
あえて、雄性不念のF1種を使う必要もないわけです。
種を育てる
F1種では、均一に育つというのが売りです。
それは、サイズや形など見た目だけのことではありません。
生理的な性質(形質)も均一ということです。
したがって、何かしらの病気がはやると、一気に広がってしまいます。
固定種では、同じようなケースでも全滅することはありません。
それが、何を意味するのかというと...
固定種は、遺伝的な多様性を備えているということです。
この特徴を最大限に活かせるのが自家採種です。
はじめて、種を蒔くと、最初の年は育ちが良くないのが普通です。
そんな中にも、育ちが良い株が現れます。
種を採るのは、そんな株からです。
そして、翌年に、その種を蒔きます。
その繰り返しで、だんだん、その土地になじんできます。
そして、旺盛に育つようになってきます。
また、野菜の好みも人それぞれに違います。
甘いのが好き、酸味の効いたのが好き、
大きいほうが良い、小さいほうが使いやすい...など。
そんな好みの株を選抜し、種を採っていくことになります。
それによって、自分好みのオリジナル野菜に変わっていきます。
これは、何も特別なことではありません。
人類は、そうやって、長い歴史を種と共に生き抜いてきたわけです。
こうして、今まで、固定種の種は受け継がれてきました。
そして、その地域独自の食文化が守られてきました。
でも、それは、過去のものとなりつつあります。
これからは、自らの手で守っていくしかありません。