「大きな経済圏」で農業は
今の農産物のほとんどは、大きな経済圏で流通しています。
そんな中では、安く大量に生産して、売りさばいていかないと利益がでません。
そのため、少しでも手間を減らそうと農薬が用いられることになります。
そして、少しでも収量を上げようと窒素肥料も投入されることになります。
こうした市場原理のもとでは、肝心の商品の品質は低下してしまいます。
たとえば、多肥栽培による硝酸態窒素の問題です。
多くの肥料を与えられた野菜は、どうしても硝酸態窒素濃度の値が上がってしまいます。
海外(EUなど)では、この硝酸態窒素の基準値も定められています。
したがって、日本の葉物野菜などは、輸出できないといわれています。
(「緑の濃い野菜は危険」と言われている所以です)
また、市場では、規格化された野菜しか扱ってもらえません。
見た目がきれいで、サイズや形が揃い、長距離輸送にも耐えられるような...
そのため、生産者は、流通用に品種改良された種を使わざるをえません。
そんな種は、栽培される土地で生まれ育ったものではありません。
(今では、9割以上の種が海外で生産されています)
したがって、適地適作ができません。
つまり、種が土地に合っていないので育ちが良くないのです。
したがって、どうしても、肥料や農薬に頼らざるをえません。
それにより、土壌が汚染され生態系が壊されていきます。
そんな土壌では連作障害も起こります。
土壌は、私たちの身体でいえば腸です。
薬剤で腸内細菌が殺されるのと同じ状況です。
そのため、野菜の免疫力も落ちて、病気や食害も避けられなくなります。
それで、ますます殺虫剤や殺菌剤、除草剤に頼らざるをえなくなります。
そんな農薬も、使っているうちに効かなくなってきます。
病原菌や害虫・雑草のほうも耐性を獲得し始めるのです。
(私たちの身体における耐性菌や耐性ウイルスによる感染症と同じです)
そのため、さらに、農薬への依存が高まるという悪循環に陥っていきます。
こうして、土壌の生き物(虫や微生物・雑草など)も死に絶え...
土中の有機物(腐植)も無くなり砂漠化が進んでいくのです。
そして、肝心の種を採取する農家が無くなりました。
採種をやめてしまうと、当然、その野菜(種)は途絶えてしまいます。
途絶えてしまった野菜(種)は、二度と復活することができません。
種は、人類にとっての貴重な遺伝資源です。
新しい品種の育成には多様な原種(DNA)が必要です。
現実に、各地域で、古来から受け継がれてきた野菜(種)の多くが絶滅しています。
なぜ、こういった状況に陥っていくのかです。
それは、生産者と消費者との間に、大きな隔たりがあるからです。
これでは、お互いの思いを理解し合うことなどできません。
いくら生産者が環境に配慮し、健康的な野菜を栽培しても消費者には見えません。
したがって、消費者は、どうしても安い方を選ぶことになります。
そして、見た目がきれいな方を...
こうした流れは、変えることができません。
大きな経済圏は、そういう仕組みになっているのですから...
したがって、いくら教科書的な議論を続けても(個々の現象面を対症療法的に扱うだけでは)、根本解決には向かわないわけです。
「小さな経済圏」で食を守る
では、どうやって、食(農業)を守っていけば良いのかです。
端的に言うと、消費者にとっても生産者にとっても良い、そして、環境にも良い(負荷をかけない)...
というもの(農業)に変えていかなければなりません。
そのためには、生産者と消費者との間にある隔たりを無くし、消費者が生産に関わっていくという形にしていかなければなりません。
つまり、その生産者の考え方に賛同する消費者が農を支えていくのです。
たとえば、その農園の野菜を消費することで支えることができます。
SNSなどで情報を発信したりもできます。
体験イベントなどを通じて、消費者が生産を手伝うこともできます。
料理教室や試食会、ワークショップなどで盛り上げていくこともできます。
このように、消費者主導で農を支援していくのです。
それにより、安全・安心は、確実に担保されることになります。
完全セルフ形態での野菜の供給も可能になります。
お客さんは、自分で欲しい野菜を収穫し、それを「はかり」に乗せ、精算すればよいわけです。
もし、「量り売り」という文化がよみがえれば...農業の形態は根本的に変わります。
種そのものから見直すことができるからです。
あえて、雄性不念の(種ができない)F1種(規格野菜)を選ぶ必要もなくなります。
「量り売り」では、形や大きさなどをそろえてパック詰めする必要は無いのですから...
個性あふれる伝統野菜や在来種、エアルーム野菜なども扱えることになります。
効率化より付加価値(品質や鮮度など)重視です。
これら固定種野菜では、自家採種が基本です。
育てた野菜から種を取って、翌年その種から育てられるのです。
それにより、未来に種を継承していくことも可能になります。
つまり、真の(種から)地産地消・適地適作が可能になるわけです。
適地適作であれば、施肥の必要はありません。
無施肥で、土壌を清浄化・健全化できれば、野菜も食害に遭ったり病気になったりしません。
したがって、農薬も必要無くなります。
無施肥・無農薬であれば、土壌や川や海、大気の汚染なども防げます。
環境にも負荷がかからず、生態系も守れます。
そして、省エネで、低コストです。
野菜の付加価値も高まります。
このように、種から見直すことで、初めて持続可能な農業が実現するわけです。
このように、人と人とのつながりが意識の変革をもたらし、様々な価値を生み出していきます。
そんな中で初めて、消費者にも生産者にも良い、そして環境にも優しい持続可能な農業の実現が可能になります。
それによって、農園の役割も大きく変わっていきます。
環境保全型農業は、農園を生き物の楽園に変えます。
そして、農園は、単なる食料生産基地ではなく、楽しみや癒やし、学びの場に変わっていくのです。