経済の矛盾の中で食を守る

対症療法に突き進む社会

 そう遠くない将来、地球規模の食料危機がおとずれると言われています。
 でも、日本においては、それほど深刻には捉えられていません。
 飽食の時代の今、「飢え」をリアルに感じることができないからでしょうか。
 食料の半分近くが、当たり前に廃棄されています。
 そして、みんな、このような状況が、ずっと続くと思っています。

 食糧危機を招く最たるものは、農業の破たんです。
 今、日本の農業が危機的状況にあるのは周知の事実です。
 高齢化が進み、農家の数は年々減り続けています。
 そんな中で、起こってくるのが大規模化や効率化優先の流れです。
 今よりも、さらに効率化を図っていけば、当面は、しのげるだろうということです。
 このように、社会は、対症療法に突き進んでいくわけです。
 負の部分(副作用)には目をつぶって...

 今の経済システムでは、消費を増やし続けていかなければ、維持していけません。
 そのためには、労働者の所得を増やし続けていくことが必須になります。
 これから、少子高齢化が進むのですから、なおさらです。
 したがって、持続のためには、効率化や省力化を追求していくしか道はありません。
 そのため、永遠の経済成長(という幻想)を信じて全力疾走を続けるしかありません。
 そして、体力の無い、弱い者や小さい者が、次々と淘汰されていくことになります。
 これが、世界的な流れ(グローバリゼーションの波)です。

 食の世界も、この波に飲み込まれていくことになります。
 「種子を制する者が世界を制す」ということで、種の覇権争いも起こっています。
 同時に、利益追求のための農業に、資金や政治力が投下されていきます。
 人的犠牲(搾取など)や環境破壊、未来の資源の先食いなどもいとわずにです。
 そんな中で、環境や住民に配慮した地域農業は駆逐されていきます。
 そして、生態系が破壊され、多様性が失われ、農地も砂漠化していきます。
 そのうち、地下水や肥料資源も枯渇します。
 そこに、気候変動がとどめを刺すことになります。

 こうした中で、いかにして、食を守っていけばよいのかです。
 それは、ローカル経済の基盤を固めていくしかありません。 
 そして、地産地消の推進です。
 地域が主体性を喪失したままでは、地域はおろか日本の未来はありません。
 日本の農業戦略としては、いち早く、「中山間地域を食料基地とすべく持続可能な適地適作農業を推進するを要す」という基本戦略を掲げなければなりません。
 その実現のために必要になるのが都市部と農村部との連携です。
 それによって初めて、適地適作、そして、地産地消が可能になります。
 そして、持続的農業が実現するわけです。

種から考える

 では、なぜ、農業が衰退していくのかです。
 まずは、大きな流れで全体的に捉えなければなりません。
 ざっと、時系列で見ていくことにしましょう。

 一昔前までは、育てた野菜から種を採って、翌年にそれを蒔いて...
 というのが当たり前でした。
 でも、今では、そんなことをしている農家は皆無です。
 では、なぜ、農家は、採種をやめてしまったのかというと...
 昔ながらの種では、均一な野菜に育たないからです。

 今、市場に出回っている種はF1種(一代交配種)といいます。
 流通に適するように、品種改良された種です。
 したがって、育った野菜は、色や形・大きさなどが揃います。
 このF1種は、見た目重視の消費者ニーズに合致し、またたく間に普及しました。
 でも、それによって、野菜の個性が無くなってしまいました。
 野菜本来の風味も失われてしまいました。
 そのため、素材の味を活かす日本の食文化もダメになってしまいました。

 そして深刻なのは、昔ながらの種(固定種)が消滅の危機に瀕しているということです。
 種は、採種されなくなると途絶えてしまいます。
 昔ながらの種というのは、いわば原種(遺伝資源)です。
 原種が無くなると、流通用の野菜(F1種)の種も作れなくなってしまいます。

 大元である種が変わると、全てが変わってきます。
 F1種というのは、栽培される土地で生まれ育った種ではありません。
 (今では、9割以上の種は海外で採種されています)
 それを、いきなり新しい土地に蒔いても、うまく育ってくれるとは限りません。
 そのため、どうしても、肥料に頼らざるをえなくなります。
 肥料を与えると、害虫の被害が増えます。
 そのため、今度は、農薬が必要になってきます。
 肥料によって、雑草も繁茂しますので、除草剤も必要になってきます。

 そのうちに、生態系が壊され、土壌そのものがダメになってきます。
 そして、肥料や農薬なしには作物が育たなくなります。
 でも、そのまま、突き進むしか道はありません。
 そこで、やっかいな問題が生じてきました。
 害虫や菌・雑草などが農薬に対する耐性をもつようになってきたのです。
 (身体でいうところの抗生物質に対する耐性菌と同じです)
 頼みの綱である農薬が効かないのですから...どうにもならなくなります。

 そして、多肥栽培によって野菜の品質が低下してしまいました。
 野菜も、栄養分を摂り過ぎると、代謝不良を起こしてしまいます。
 吸収した窒素分が蛋白質になりきれずに野菜の体内に残ってしまうのです。
 それが、エグ味になったり、健康被害につながったりします。
 最近、取りざたされている硝酸態窒素濃度の問題です。

 海外(EUなど)では、この硝酸態窒素の基準値も定められています。
 したがって、日本の葉物野菜などは、輸出できないといわれています。
 韓国や中国も国を挙げて、環境保全と食の安全安心にシフトしています。
 これからは、農業も、いやおうなくグローバル化の波に飲み込まれていきます。
 そうなると、今の日本の野菜では太刀打ちできません。

 そこに追い打ちをかけるのが、異常気象です。
 今の日本の野菜では、干ばつや長雨に対応できません。
 これも、多肥栽培が災いしています。
 過剰な肥料を与えられた野菜は、根を深く張りません。
 そのため、ちょっとした環境の変化にも耐えられないのです。